ども、富山人あるのんです。
富山湾の深海に生息する「げんげ」という魚はご存知でしょうか。富山人にはおなじみの魚ですが、県外の人にはかなり珍しい魚だと思います。
げんげという名前は元々「下の下」という意味合いによるもので、体表に大量のゼラチン質を含むんですね。
なので、底引き網にかかると網にゼラチン質が付着してメンテが大変だし、水分を大量に含む魚なので腐りやすく、そして味もさほど良いものでもないという評価から、げんげが網にかかったら浜に捨てていたような扱いだったのです。
しかし近年、この魚が天ぷらのネタとして美味で、また干物にすると濃厚な味が楽しめることから珍重されるようになりました。近年におけるげんげの再評価、そしてげんげだけを捕る漁がなく希少なことから「下の下」から「幻魚」へと華麗に転身しました。
ある意味、魚体のサイズで呼び名が変わる鰤(ぶり)よりも、このげんげこそが出世魚と呼ぶに相応しいのかもしれませんね。
富山で流通するげんげ
■シロゲンゲ
魚体が大きめで、主に天ぷらに使用されます。飲食店に人気のため、スーパーではちょっと見かけないですね。
■クロゲンゲ
主に吸い物や干物に使用されます。富山のスーパーで見かけるのはだいたいこれ。そして値段が安いです。
富山では多くの居酒屋で、げんげを食べることができます。飲食店で見かけるげんげ料理は主に次の3種。
■げんげの天ぷら
コラーゲンをたっぷり含んでいて、プルプルとした食感がたまらないんです。味はすこぶる淡白ですが、ふわぷるっとした食感に天つゆの味がたまらなく合うんですよね。
■げんげ汁
特にすんごい出汁が出るとかいうわけでもないのですが、ぶつ切りのげんげに上品でやさしい出汁がなんとも心温まる味を醸し出します。
昔居酒屋で初めてこれをいただいたとき、げんげって美味しいものなんだな~と感激した記憶があります。
■一夜干し
この風貌…。底引き網からというよりは、むしろ鰤の腹を食い破って現れるのが相応しいのではなかろうか。
げんげは本来、淡白な味わいなのですが、この一夜干しの濃厚さといったら、この魚のいったいどこにこのような味を隠し持っているのかと疑問に思うくらいです。
他の食べ方があってもいいのではないか
飲食店で見られるげんげ料理はこんな感じですが、最近このげんげに関して思うことがあるんですね。
それは、この不思議な深海魚を我々は知り尽くしているといえるのだろうか、このげんげはもっともっとポテンシャルを秘めているのではないか、と。
そこで今回、このげんげのポテンシャルを高めるべく、これまでに食べたことがないやり方を試してみたいと思います。
富山らしく、あまり素材をいじくり回さないやり方で、さらなる可能性を追求してみましょう。
今回はクロゲンゲを使用しました。スーパーにはこれしか売ってなかったので。
シロとかクロとか、肌の色の違いがどうとか、実にくだらないことだね。
スケルトン仕様。世界が嫉妬するシースルーへ。内蔵の位置がくっきりとわかり弱点丸見えですが、厳しい自然界で、これで大丈夫なんでしょうか。まあ深海だしね。
ゲンゲの身を3枚に下ろしていくのですが、げんげは顔に近い腹の白い部分にのみ内蔵があります。内臓といっても卵と肝しか入ってないんじゃ?というくらいシンプルな構造に面食らいました。
iPhoneが初めて世に登場した頃の話。日本の会社が、これが果たしてどんな複雑な構造をしているのかと分解してみたところ、構造のシンプルさに技術者たちは驚いたという。
富山では「富山県の魚」として次の3種が指定されています。
富山湾の王者、ぶり
富山湾の宝石、白えび
富山湾の神秘、ホタルイカ
と、やたらカッチョイイ異名を与えられているので、げんげもぜひ「富山湾のiPhone」と名乗り、富山湾四天王として君臨していただきたいですね。
白えびやホタルイカに「やつは四天王の中でも最弱、我ら富山湾四天王の面汚しよ」と言われないよう頑張ってね。
まずは刺し身で
これはなかなかにお美しい白身
何においてもまずはお刺身。刺身で食べられない食材など、富山では認められないからね。(ちょっと言い過ぎ)
醤油の形がどことなく富山っぽい
舌触り、食感がまず心地よい。
ネットの事前情報では「味がなさすぎる」との意見が大半だったけど、どっこいほのかに甘みも感じられ、どうしてどうしてなかなかのお刺身じゃないかと思います。白身魚はどうしても味が淡白なので、熟成させるとなおいいかもしれません。
居酒屋の刺身盛りにもしげんげが入ってたら、さぞやインパクトあるでしょうね。
昆布締め
昆布消費量全国トップレベルを維持し続ける富山。
富山ではあらゆるものを昆布締めにします。淡白な白身魚は昆布との相性がグンバツ。昆布の旨味+味が熟成し、食材が一段上の味わいへ進化します。
ちょっと長めに、約2日感締めてみました。
これはきっとイケるやろ!
で、このように。いい感じ。
味噌漬け
味噌は日本が誇るチート調味料のひとつ。味噌漬けにしておいしくならないものを探すほうが難しい。
一晩漬け込んだ後、ちょっと味が濃かったので少々水抜きして、水気を吹き取ってからピチットシートでくるみました。
このシートは、脱水と熟成と臭み取りの機能を兼ね備えています。なかなか実店舗では売ってないのん。
釣具屋にあるらしいんだけど、ちょっと見て回って感じでは見つけられませんでした。なので、いつも安定のAMAZONで購入してます。
ピチットシートでくるんで、一日半冷蔵庫で置いておく。
こんな感じに水分が抜けます。ゲル状のシートに水分が移ってズシリと重くなります。
牛肉などを包んでおくとシートが肉臭くなるのだけど、今回匂いを嗅いでみたら無臭でした。てか身をさばいても血も出ないし、手も臭くならないし、ゲンゲさんは優秀ですなあ。
卵と肝
では一通り仕込みも完了したところで、げんげの卵と肝の味見をしてみることにしましょう。
■げんげの卵
醤油漬けにしようと思ったけど、素の味を確かめたかったので塩漬けにしてみました。
見た目には黄色いイクラにしか見えない。
食べてみると、これが………
食感が、ない!?
プチっとした食感もなく、濃厚な味わいがあるわけでもなく、ただぬるっとして水っぽく、生命の源をほのかに感じるくらいでしょうか。
卵本来の味はあまりいいものではありませんでした…。
■げんげの肝
個体によって大きさはまちまちだけど、かなりちっさい肝。
えっと、これは生で・・・いけるんか?
一応、熱は通そうか…。いや、別にビビってるわけじゃなくて、ほら、肝は生食より熱を通したほうがおいしいからね。あ、それに、クロゲンゲはノロゲンゲの仲間だそうだしさ。
ちょっと熱通しすぎたかしら……
いやいや、だからビビってなんかないちゃよ!
おお?…うおおおおおっ!!!?
こ、これは、うまい!!!
豊かなうま味、臭みもまったくなく、甘みすら感じる。これはあん肝やカワハギの肝に負けてないのではないか。
ただ、卵も肝も、微妙ぉ~にジャリッとするんよね。砂ではないと思うんだけど、なんだろう。これは苦手な人がいるだろうな~。
でも味は本当にいいので、もし機会がればぜひ食べてみてください。
味噌漬け その後
味噌漬けの半分はそのままでいただくことにして、もう半分は燻製にします。
いつでもどこでも思い立った瞬間に燻製ができる、サーモスのイージースモーカー。
桜のチップで約5分ほど中火で燻製にかけました。蓋をすると煙がほとんど漏れないので、とても使い勝手がいいんです。
これは超期待!
ではいよいよ実食!!
盛り付けのセンスに関しては、どうかそっとしておいて下さい
■昆布締め
全体にしっとりとしています。
約2日間も締めたので、昆布のうま味がばっちり出てます。飲み込むと、昆布の味のビッグウェーブが押し寄せてきます。締め時間はもうちょっと短くても良かったかも。
塩気もなかなかあって、これはもう日本酒のお供にばっちりです。昆布締めサイコー!
■味噌漬け
おおお、これも間違いのない旨さ!!
水分が抜けきって、いい感じにカラカラになっています。味噌の香りがなんとも食欲をそそりますよ。
素材の持つ上品な味と味噌のコクが相まって、これは素晴らしく上品な味の珍味ですよ。
■味噌漬け燻製
ぬうううう…
これは、絶品であるッ!!!
ほどよい燻製の香りがたまらない。熱も通したことで歯ごたえもいいし、何よりうま味が活性化されてる。燻製にしたからか味噌の感じはあまりしないけど、全体的に深いコクを与えていることは間違いない。
これは商品にもなりうるクオリティではなかろうか。この先走りあるのん、さっそくパッケージデザインの草案を考えてみました。
まあ、このデザインに唯一問題があるとすれば、iphoneの商標がアイホン株式会社のものであるということかな…。
まとめ
げんげの人気が出てからまだ歴史も浅いので、げんげにはまだまだ我々の知り得ない可能性が秘められているのではないでしょうか。
今回作ったものは富山では特に珍しい調理法ではありませんが、安価な食材でもこんなにおいしく、そして工夫次第で最高の珍味にもなり得るのです。
それはまるで、げんげさんが
「君の価値を決めるのは学校や社会や他人ではないんだよ。だって僕は昔から何ひとつ変わらないのだから。だから君も周りの評価になど振り回されず、自分の信じる道を歩むがいい」
と、人生の大切なことを教えてくれているようではありませんか。
えっ、別に思わないって?……チッ
それでは皆さまごきげんよう~~
コメント
コメント一覧 (6件)
富山のハーフで苦手な魚などほぼ無い自分ですがゲンゲのゼラチン質だけは無理なんです…
しかしこの調理法だとヌメヌメが無さそうなんでイケそうです♪
逆にアル中勢からしたら絶好のツマミに見えますなw
あら、そうなんですね。
コラーゲンでお肌ぷるぷるなのに…w
これらの方法だとヌメヌメはありませんでしたよ。
いやもう抜群の肴でしたよ~(^-^)
もっと食べたい…w
これはまた色々とチャレンジされましたねw
次回があればコラーゲンを取り除かず生食をして欲しいところですねw
富山人の好きな刺し身ベースでやっつけてみました。
とるきちさんもぜひどうぞw
確実に食感は悪くなりそうですけどね…
これ以上お肌がぷるぷるになってしまってもアレなので、
できれば避けたいところですが…w
素晴らしいです。拍手、拍手。
商業的にも行けるんではないかい?
と期待してしまう。(自分では無理~)
ありがとうございます。
いや~、これが買えたら当たり引いたと思いますよ。
(パッケージで引くと思いますが…)
ぼくもしょっちゅうやるのはきついので、
どこかが商品化してくれてもいいのよ。