『モーツァルトの音楽』と聞いてどんな曲を思い浮かべますか?
モーツァルトは5歳のときに作曲した小品(K.1)から、35歳でこの世を去った未完のレクイエム(K.626)まで、実に数多くの名曲を残しています。
目次
「天才モーツァルト」の「天才」って?
バッハは「音楽の父」、ベートーベンは「楽聖」、そしてモーツァルトは「天才」と形容されています。
長い音楽史上において天才と呼ばれる人は何人もいますが、なぜモーツァルトが天才と形容されているのでしょうか。その大きな理由の一つとしてまず父親レオポルド・モーツァルトの存在を抜きには語ることは出来ません。
父親のレオポルト・モーツァルトも音楽家でした。
作曲家としては大成しなかったものの、息子の才能をいち早く見抜き、考えつく最高の教育を施し、王侯貴族にガンガン売り込みをかけたその教育者やプロモーターとしての手腕は、超一流でした。父親がこの人でなければ今日のモーツァルトは存在しなかったでしょう。
このときの数々の華々しい神童伝説の記録が残っているため、音楽の神童=モーツァルトという世の中のイメージが定着したのだと思われます。
モーツァルト神童伝説例
-
3歳からチェンバロを弾き、5歳で初めての作曲、8歳で交響曲、11歳でオペラを作曲。
-
6歳でウィーンのシェーンブルン宮殿で皇帝フランツ1世と女帝マリア・テレジアを前に御前演奏。
-
同じく6歳のとき、父親の楽団がバイオリン3重奏曲を練習中、自分も参加したいと懇願。第2バイオリンを見事に弾ききる
-
またまた6歳のとき、大人のバイオリンを触らせてもらったときに、その調律が8分の1音ズレているのを指摘。
-
14歳のとき、ローマのシスティナ礼拝堂で演奏される、9声部からなる門外不出の合唱曲「ミゼレーレ」。これを一度聴いただけで記憶し、後から書き記したことで世間を仰天させ、勲章まで贈られることとなった。
「神童も大人になればただの人」という言葉もありますが、モーツァルトも大人になったら普通の作曲家になってしまったのでしょうか。
いえいえ、モーツァルトが本当にすごいのは神童時代ではなく、大人になってより高度な作曲技法を身につけ深い音楽性を表現していったところにあります。
モーツァルトはとてつもない神童でありながら、大器晩成型でもあり、神童から真の天才へと昇華していったのです。
初心者にお勧めしたいモーツァルト10曲
ディベルティメント ニ長調 K.136
まだ16歳のモーツァルトによる瑞々しい感性がほとばしる名曲。
モーツァルトの代名詞的名曲の「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に通じる、光輝くような魅力のある曲です。
フルート四重奏曲第1番 ニ長調 K.285
裕福な承認であり音楽愛好家でもあるフェルディナント・ドゥジャンの依頼により作曲されたもので、その依頼の際に「軽くて短い協奏曲を3曲と四重奏曲を何曲かをフルートのために」と言われていたのに、実際にはそこまで完成できなくて大幅に値切られてしまいました。
その理由としてモーツァルトはフルートが嫌いだったそうで、「我慢できない楽器のための作曲をずっと続けなければならないと、お分かりのように、僕はうんざりしてしまうんです」とまでボロクソに言っています。この時代のフルートはまだ未発達だったそうですが。
しかしこの音楽からはそんなことをまったく感じさせない、自由でのびのびとした旋律が躍動する魅力的なものとなっていて、第2楽章の悲哀に満ちた旋律が印象深いコントラストを醸し出しています。
フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299
フランスの貴族である親子から依頼された曲で、オケをバックに父親のフルートと娘のハープのための2重協奏曲として作曲されました。
フルートとハープという当時では前例のない組み合わせにも関わらず、フルートの透き通った音色とハープのきらびやかさがいかんなく発揮されています。
第2楽章の典雅さは、まるで春に吹き抜けていく風のような心地よさがあり、単独でも演奏される機会がある人気の曲です。
ピアノと管楽のための五重奏曲 K.452
ピアノ、クラリネット、オーボエ、ホルン、ファゴットという非常に珍しい楽器構成の五重奏曲で、親しい演奏家の友人たちと演奏するために作曲されたものです。
素晴らしい音楽でありながら珍しい構成ゆえになかなか生で聴く機会がないのですが、頭の中で作曲が完結するモーツァルトとしては珍しくこの曲を作るにあたって7ページにも及ぶスケッチが残されていることから、相当に気合を入れて作曲したであろうことが伺えます。
初演後に父親に宛てた手紙でも「私は2曲の大協奏曲と五重奏曲を作りましたが、五重奏曲は拍手大喝采でした。私自身これまでの作品の中で、この曲を最高のものだと思います」と言ってるほどに、モーツァルト自信としても会心の音楽だったのでしょう。
各楽器の関係が完全に対等であり、絶妙な均衡によって各楽器が対話を楽しんでいるような面白さがあります。
第2楽章の各楽器の絡み合う美しさは必聴です。
ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467
ピアニストとしても一流だったモーツァルトが、特に力を入れていたジャンルがこのピアノ協奏曲でした。
この曲が作曲された時期は、円熟期を迎えたモーツァルトがノリにノリまくっていた時期で、この第21番はいかにもモーツァルト的な快活さに満ちた楽しいものとなっています。
この第2楽章は映画にも使用されたことがあり、まるでリアルタイムに変化する絵画のような美しい楽曲です。
ロンド ニ長調 K. 485
シャルロッテ・フォン・ヴュルベン嬢のために作曲された小品。出だしの主題はJCバッハ(JSバッハの第11男で、モーツァルトと親交があった)の五重奏曲より引用されています。
軽快で愛らしい主題からはじまり、抜群のテンポ感と巧みな音運びが心地いい曲です。ソナチネくらいの技量で弾ける曲だそうですが、しかしこの曲を魅力的に弾くのはなかなか難しいのではないかと思います。
セレナード第13番 ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
モーツァルトの全楽曲の中で最も有名なものの1つです。
モーツァルトの死後に出版された曲で、この音楽が作曲された経緯や目的や初演が行われたかどうかは現在においても不明。父親の死の2ヶ月後に作曲されています。
さらにこの曲は元々5楽章形式だったのですが(作品目録より判明)、第2楽章が散逸してしまっているなど、この楽曲に対する謎は多いのです。いつの日か、ぼくが生きてるうちに出てきてほしいなぁと思ったり。
全楽章を通じて優雅さや華やかさに包まれ、王者の風格すら感じる見事な出来栄えとしか言いようがありません。
交響曲第40番 ト短調 K.550
モーツァルトの41曲ある全交響曲の中でも最も有名なものです。
モーツァルトのト短調の音楽はどのジャンルのものも独特の個性を持っており、「モーツァルトのト短調は名曲揃い」と言っても差し支えないほどにいずれも人気が高いです。
交響曲の第39番、40番、41番は初演された記録もなく作曲の経緯や目的も不明とされていますが、わずか2ヶ月ほどで作曲されたこの3曲は不滅の輝きを放っています。
クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581
友人のクラリネット奏者のために書かれた曲で、最晩年に作曲されたクラリネット協奏曲(K622)と共に、モーツァルトの晩年の傑作としても、この楽器のための音楽としても特に有名なものとなっています。
死の2ヶ月前に作曲されたクラリネット協奏曲の世界は、もはやこの世との決別のようにすら感じてしまうのですが、この五重奏曲の持つ透明感や純粋な美しさは、まだ現世にいる我々のために残してくれたものであると思っています。
美しくて、儚くて、切なくて、寂しい。
弦楽四重奏とクラリネットの対話に深まっていく秋を感じながら、今日もモーツァルトが聴ける幸せに感謝するのです。
モテット アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618
この曲はカトリックで用いられる聖体賛美歌で、妻コンスタンツェの療養を世話した合唱指揮者アントン・シュトルのために作曲されたものです。
弦楽四重奏+混声四部合唱という簡素な編成、わずか46小節の小品です。
非常にゆっくりとしたシンプルな音楽ですが、起承転結を感じさせる構成と絶妙な転調による神々しいまでの天上の響きは、モーツァルト晩年の傑作に数えられています。
その他ガチでおすすめしたいモーツァルト
初心者向けとかを抜きにして、モーツァルト好きの2人が個人的に特に好きなものをちょっとだけピックアップしてみました。
ここで解説すると長くなりすぎるので、もし要望があればそのうち・・・(^_^;)
弦楽四重奏曲 第15番 ニ短調 K.421(417b)
大ミサ曲 ハ短調 K.427
ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K.466
ピアノ協奏曲第23番 イ長調 K.488
弦楽五重奏曲第4番 ト短調 K.516
交響曲第41番 ハ長調 K.551
クラリネット協奏曲 イ長調 K.622
レクイエム ニ短調 K.626
よく見てみると短調の曲が多いですね。
モーツァルトというと長調の華やかなイメージがあるかもしれませんが、モーツァルトは短調が非常に魅力的なのです。
モーツァルトはオペラも凄い!
モーツァルトはコンチェルト・ソナタ・シンフォニー・室内楽・宗教音楽など、あらゆるジャンルで才能を発揮しましたが、オペラにおいてもその名を歴史に深く刻み込まれています。
特に「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「魔笛」はモーツァルトの3大オペラといわれ、現代においても数多く上演されているのです。
どれも素晴らしいものに違いありませんが、このうちまずどれを聴けばいいのかというと、これまた難しいですが、「フィガロの結婚」か「魔笛」でしょうか。
フィガロの結婚は、伯爵の家来のフィガロとスザンヌが結婚するにあたり、廃止された「初夜権」を復活させようとする伯爵を中心に巻き起こる、人間模様が複雑ながらとても楽しくて面白いラブコメディ。
魔笛は、大蛇に襲われたタミーノ王子が、夜の女王の3人の侍女に救われ、彼女たちが王子に見せた夜の女王の娘、パミーナの絵姿を見せたところ王子が一目惚れしたとこから始まります。僧正ザラストロに愛娘を奪われた夜の女王に深く同情し、パミーナを救い出すために、ザラストロの神殿に、「鳥刺し」のパパゲーノといっしょに乗り込みます。
音楽も良く内容も面白いフィガロにするか、一部のストーリーについて賛否ありつつも音楽的に素晴らしすぎる魔笛にするか。
まあいずれ3つとも観ていただくとして、ピンとくるほうを選んでみていただければ…と。
モーツァルトを題材にした名画『アマデウス』
ブロードウェイの舞台『アマデウス』が1984年に映画化されました。宮廷作曲家アントニオ・サリエリを中心とした視点からヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの物語が描かれています。
映画版『アマデウス』は、アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演男優賞、脚色賞、美術賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ賞、音響賞の8部門を受賞し、他にも英国アカデミー賞4部門、ゴールデングローブ賞4部門、ロサンゼルス映画批評家協会賞4部門、日本アカデミー賞外国作品賞などを受賞。
映画は天才対凡人という視点で描かれていて、モーツァルトの奔放さがまず印象的な内容となっていますが、美術の素晴らしさやモーツァルトの音楽がふんだんに使用されているのも大きな魅力ですね。
大音楽家たちもモーツァルトを尊敬していた
今回ご紹介した以外にも実に数多くの素晴らしい音楽がまだまだいっぱいあります。
モーツァルトの音楽はクラシック音楽の入り口としても親しみやすく最適でさすが、では初心者向けオンリーなのか?というと、まったくそんなことはありません。
「いかなるときも私は自分をモーツァルトの最大の尊敬者の一人と自認してきましたが、これは人生の最後の瞬間まで変らないでしょう。」
「おお、モーツァルト、不滅のモーツァルトよ。君は、より明るく
よりよい生活についての快い映像を、どんなにたくさん、無限に数多く、
私たちの魂に刻みつけてくれたことか!」
「ジュピター交響曲は私が聴いた音楽の中で最も偉大なものである。終曲のフーガを聞いたとき、私は天にいるかの思いがした」
「51歳の誕生日の6週間前に敗血症で死を迎えたときの、最期の言葉は「モーツァルト!」だった。」
「ある音楽家の教養の程度は彼のモーツァルトに対する関係で分かる。相当の年にならねばモーツァルトを理解することができない、というのは、よく知られた事実である。若い人たちは、モーツァルトを単純、単調、冗漫だと思う。人生という嵐によって純化された人だけが、単純さの中の崇高さと、霊感の直接性を理解するのである。」
どうか皆様に人生の良き伴侶となりえる、素晴らしい音楽との出会いがありますように。
お勧めリストの制作協力者:TAK
コメント